第23章 口走る本音
「…Qは生き物、具体的には会話ができる生き物を殺さない」
「そうだ。あいつは殺せない」
「けど、殺さないといけない場合があると、考えを改めた。改めざるを得なかった、とQは言ってた」
俺はひそかに望んでいた。
彼女の目指す世界が実現すればいいと。
彼女のひたむきに走り、戦う姿を見て、応援していた。
それなのに、彼女は目指す方向を変えてしまった。
命を懸けてまで思想を守ろうとしていたのに。
「どうしてそんな残酷なことが…」
「Qが…自分を変えなかったからだと思うよ」
「自分を変えたから、こうなったんじゃ…」
「違う。変えなかったからだよ」
コンブは力強く言った。
彼女の思想は変わったのに、彼女の根本は何も変わっていない…?
「QはQのままなんだよ。ずっとある1点を目指して進んできた」
つまり、彼女の思想が変わったのは、その1点にたどり着くために、乗り越えなければならない壁があったから。
思想の変換は、彼女の目標に必要不可欠だった…。
「Qのゴールに関しては、私よりも学長のほうが理解できると思うよ」
「俺が?」
「そう。だって、学長はQの”青春”に関わってるもん。Qは暇さえあればこう言ってたよ。『私の青春は宝物』だって」
彼女は俺から見れば、とんでもなく不幸な少女だった。
けれど、彼女は手に入れられるはずのなかった”普通”の生活を手に入れた。
背筋を伸ばして堂々と…。
「Qはとっても我儘。自分の夢をかなえるためなら、何でもする。辛い思いをしながら呪術師を続けてきたのもそう。全部、”彼”のため」
刹那。
全て理解した。
彼女の原動力が何であったか。
そして、その何某のために全てを捧げる覚悟を持っていたことを思い出した。
「悟か…」
コンブは凝視しなければ分からないほど小さく頷いた。
「Qは五条悟の気持ちを勝手に想像して、勝手に怒ってる。ほんと、理解に苦しむよ」
彼女の頭のおかしさの最骨頂はこれだ。
関係ないところにまで仇を突っ込み負傷する。
そして、誰かが助けてくれるのを待っている。
…いや、これは違うな。
訂正しなければ。
つまるところ、こういうことだ。
彼女は偽善を真実に変える努力を、命懸けで行っている。