第20章 昔話のハッピーエンド
「は、恥ずかしいって」
「大丈夫、自信持ちなって。ほーら」
「わっ…」
綺麗になった千夏を元の場所に帰した。
用を終えた私達は、静かにその場を立ち去った。
「わー。千夏、大変身じゃん」
「似合ってるね。悟もそう思うだろ?」
「…いいんじゃね。馬子にも衣裳っていうの?」
そんな会話に聞き耳を立てていると、少し胸がざわついた。
「ねえ、愛華。結局何がしたかったの?」
「…私も分からん」
千夏は幸せそうだ。
決して不幸を望んでいたわけではない。
けれど、おばさんと別れて苦労した、などと言うエピソードを微かに望んでいた。
おばさんが今でも必要だと言わせたかった。
「もし。この先どこかで千夏に会ったら、千夏の苗字を聞いてみて」
「今聞けば…」
「ううん。神様次第ってことにしたい」
「…じゃあ、メモしとく。千夏に会ったら苗字を聞けばいいんだね」
「…ありがと」
もし、千夏がおばさんを恨んでいたらと思うと、胸がつぶれそうだ。
私が勝手に出しゃばって、おばさんを苦しませたくない。
千夏の人生を壊したくない。
おばさんが守ってきたものを壊したくない。
神様なんて信じてないけど、今ばかりは頼らせてもらおう。
そんな都合のいい神様なんていないだろうけど、もし私に手を貸してくれるなら、もう一度千夏に会う機会を作ってほしい。
その時は怖気ずに、千夏に名前を聞いて。
彼女の苗字が八乙女ならば、ほぼ確定。
八乙女以外でも、おばさんを覚えていて、かつ恨んでいなかったら、ぜひ会ってもらって。
おばさんの話を聞いてもらいたい。
どうか神様。
何がしたいのか全く分からない、この哀れな私の望みを。
都合よく叶えてください。