第20章 昔話のハッピーエンド
恐る恐る部屋をのぞくと。数時間前と同じ位置に、同じ姿で座っている硝子を発見。
それに呼応するように、私も数時間前と同じ方法で部屋に入る。
「しょー…」
そっと声をかけたつもりだが、それなりに驚かせてしまった。
近くの椅子を持ちかけた硝子の手を、慌てて押さえる。
流石に椅子は衝撃が大きそうだ。
「どうやって入った?」
「それは企業秘密ってことで…あはは」
機嫌取りに有効だと思い、パンとコンビニで買ってきたお酒をすかさず渡す。
すると、思っていたより効果は得られなかったものの、命の無事を確証した。
「千夏、飲める口?」
「普通かな」
そう言ったにもかかわらず、一杯目として差し出されたのはウイスキー。
やはり、一般人の基準を知らないらしい。
「さっき、色々投げてごめん」
「気にしてない。ていうか、ちゃんと寝てる?」
「忙しいの。十年もほっつき歩いてたあなたと違って」
「私だってちゃんと働いてましたー」
話していると、硝子の雰囲気が変わったことが、とてもよく分かる。
大人になったというか、現実を生きているというか。
芯が通った女性になっていた。
「そろそろ話して」
「何を?」
「今まで何してたの」
英語が話せる人に『何か話してみて』と聞いたり、ピアノを弾ける人に『何か弾いてみて』と頼んだり。
こういう類の質問に答えるのは、意外と難しい。
どこから話していいのやら…。
「大雑把に言うと、呪いの被害を食い止めるための餌づくり」
「事後対応じゃなくて、事前対応のほうに従事したってこと?」
「そうかな。一人で粛々とね、頑張ってたわけですよ」
心霊スポットだとか、自殺名所だとか、お墓とか神社とか寺とか。
定期的に呪霊が湧いてしまうような場所を転々とめぐり、適当な方法で被害を最小限にする。
呪霊が湧いても被害が目立たないような工夫、あるいは呪い自体を寄せ付けない工夫を施していた。