第2章 ハグの効果
「はろはろー、わっすれもの♪」
まじか。
願ってみるもんだな。
「おっ、あった」
「それ、一応私のお菓子なんだけど」
棚の中のお菓子は全て五条の胃の中。
正直お金を返して欲しいけれど、五条だから許す。
「ねぇ、五条」
「んー?」
「抱きついていい?」
「はっ、何言って…」
身長差はざっと30センチ。
私は平均的な身長だけれど、五条が規格外のデカさなのだ。
正面から抱きつくことを想定していたが、バックハグも中々いいものだ。
「今日、ずっと考えてたの。どうしたら五条に抱きつけるかなって。好感度爆上がりするセリフも考えてた。結局思いつかなかったけど」
温かい。
人の温もりは好きだ。
安心するから。
「微塵もキュンとしないハグができるなんて、千夏ってば天才?」
「そこはキュンしとけや」
キュンてさせられなくても、振り払われないだけマシか。
「今日ね、けっこ―強い奴いてさ」
「マジ?」
「まーじだよ」
ここで振り払われた。
五条が離れていく。
温もりが、消えていく。
「でも、安心して。”千春”は呼んでない」
「出てきたんだろ。無傷じゃん」
消えた温もりが戻ってきた。
正面ハグもできるなんて思ってなかった。
「そんなにやばかった?」
「うん」
私の武器は呪言。
そして、もうひとつ。
私じゃない私。
これが私の最大の武器で、上をビビらせる脅威。
私の呪言はハッピーセットについてくるオマケみたいなもの。
「ふぅ。充電完了!五条も怒られてきなさい!」
五条を押し返し、背中を押して部屋から追い出した。
「おいおい、今の流れは『五条…離してよ』『離さない』ってやつだろ」
ドア越しに五条の演技が始まった。
自分でやってて恥ずかしくないのだろうか。
「いいから早く硝子達のところ行けって」
「可愛くねー怪力女。うげー!」
足音が遠ざかる。
戻ってこないかなー、なんて思ってチラリと外を覗いてみる。
もう、誰もいなかった。
「あーゆーラブコメは漫画だから成り立つんだよ、ばーか…」
私だけドキドキしちゃって、バカみたい。
残酷で儚い呪術界にいて、ここまで純情な恋をしてるなんて。
褒めてもらいたいくらいだ。