第17章 バースデーカード
強くあれ。
誰にも負けないように。
「久しぶり、冥さん」
強くあれ。
大切なものを守れるように。
「…ふふ。嫌な笑顔をするね」
強くあれ。
二度と大切なものを失わないように。
長い髪を下げた冥さんの前に腰を下ろした。
「大した用じゃなかったら、許さないよ?」
「大丈夫。時間もないし、単刀直入に聞こう」
余裕ぶっていられるのも今だけさ。
俺はこの日をずっと待っていた。
「八乙女千夏の居場所を教えろ」
喫茶店の注文ベルが鳴った。
「懐かしい名前だね」
冥さんがコーヒーをすする。
「夏の暑さで頭がおかしくなったのかい?」
「冥さん、冥さん。残念ながら、無駄な話に付き合う時間はないんだよね~」
「無駄な話を始めたのはそっちじゃないか」
冥さんのメニュー表を取ろうとした手を押さえた。
「どれが無駄な話だって?」
「自明」
腕を引っ込めて不気味に笑う冥さん。
「八乙女千夏はとっくに死んだろう」
俺も笑う。
「記録上はね」
俺が頼んだシフォンケーキが届いた。
フォークで押さえると跳ね返ってくるくらい、ふわふわだった。
「俺は信じてない」
「ふふ。今更何を」
別に今でなくてもよかった。
十年前から今日までの間、いつでもよかった。
「ここ何年か連絡を取ろうとしたんだけど、どうも避けられてるっぽくって」
「故人を思うのは悪いことではないけれど、少し妄想がすぎるんじゃないかな」
「妄想?何言ってんのさ、冥さん」
気が付けば、身を乗り出していた。
「冥さんは知ってるはずだ。あいつが今、どこで、何をしてるかを」