第15章 終わりと始まり
「…ん。じゃあ、私の術式は?」
私が術師だったのなら、私にも術式があるはずだ。
飴缶で力を封じていたとしても、術式を忘れているなんてことはないだろう。
『…知らない』
「え?」
『だから、知らない』
千春はそっぽを向いた。
ここが一番欲しい説明だったというのに。
なんてことだ。
「じゃあ、私はこれからも力を暴走させるだけ?」
『暴走しないようにしなさい』
「どうやって」
『千夏の場合、体づくりが不十分なの。前だって、呪力をまとめて打っただけなのに、筋断裂起こしたでしょ』
「…忘れてください」
『あの時も暴走する千夏を、私達が頑張ってセーブかけてたんだよ。それで筋断裂起こして…。フルパワーだったらどうなってたか』
あの時は手術がいらないレベルだったけれど、手術が必要で、もしくは一生治らなかったら…。
「私、トレーニングします」
『そうして下さい。その後にコントロールの練習ね』
「えっ、練習すんの」
『…当たり前でしょ』
今回は千秋と千冬は助けてくれなかった。
『私達と一緒にいるためには、千夏が頑張らないといけないの。私達が消えてもいいなら…』
「それずるい。私がみんなと一緒にいたいって、知ってるくせに」
『…私達がいない方が絶対平和に暮らせるのに』
「いいの。そんな平和はいらない」
そんな話をしてから、飛行機に乗り込み、愛華の住む土地にやってきた。
そして今、こうして電話ボックスでむせび泣いているわけだ。
〈千夏、帰ろう。このままだと熱中症になっちゃう〉
《何でもっと水買わなかったの》
『千夏が話を聞いてくれなかったの。私はちゃんとアドバイスした』
うるさい、なんていう気力もなかった。
お願いだからどこか遠くで言い合ってくれ。
「……一人にして」
これからは今までのように暮らすことはできない。
楽しいことも、つらいことも、すべて自分で抱えなければならない。
明けない夜を一人で歩まなくてはならない。
そのことを完璧に理解するには、二日という短い時間では到底無理で、まだまだ時間がかかりそうだった。