第11章 裏切りのスパイス
じっと、遠くから目標地を眺めた。
建物の入口に待っているのは、どんな神よりも怖いあの人。
ここまで来たにも関わらず、行くか迷う。
……♪
冥冥さんの番号だけバイブ音に設定してある。
気づかなかったと言い訳できるように。
「…もしもし」
『そこで何してるんだい?早く来なさい』
ば、バレてる…。
周りを見てみると、1羽のカラスが…。
***
「冥冥さぁん、おはようござ…」
「遅い」
「うっ…。ごめんなさい」
ここに来る間に何度も先生との会話を思い出した。
それでも、やっぱり記憶にない。
ここまできたら、先生を責める方が正しいような気がする。
「あの、どうかしましたか?」
冥冥さんが私を見つめたまま動かない。
「えっ、と…?」
「今までの威勢の良さはどこにいったのかな」
確かに今までの私だったら『悪いのは全部夜蛾先生だろぉ!』とか、冥冥さん相手でも突っかかっていたと思う。
「冥冥さんは今までの私の方がタイプ?」
「そういうところは変わってないみたいだね」
長い髪を後ろにやって、冥冥さんは歩き始めた。
「少々千夏と話したいこともあるし、手早く済ませようか」
「げっ…」
「お手柔らかに頼むよ」
「はは。りょーかい」
何をするのかは全く聞かされていない。
とりあえず、冥冥さんについて行けばいいのだろう。
冥冥さんと2人で行う初めての任務。
少し胸がドキドキした。