第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●小金井 慎二● 〜校庭〜
「はぁ〜超ぉービビったよ〜…」
そう言って、思わず大きな溜息を溢す。
「これ以上は下がらないんじゃないか」って思うほど、肩を下ろしながら。
鳩じゃないだけだいぶマシだ。
それでもとんだ酷い目にあった…
「ビビったのはこっちだ。
“助けて”って言うくらいだから
どれほどのトラブルかと思ったら鶯かよ。
拍子抜けでむしろビックリだ」
その後、「分かったなら勧誘に戻れよ?」と言い残して、伊月はオレに背を向けてビラ配りに戻っていった。
そう…“うぐいす”だ。
あの鳥の名前。
「ねぇ水戸部。“うぐいす”って何だっけ?」
早々に背を向けた伊月と違い、未だそばを離れない水戸部にオレのシンプルな疑問を投げかけた。
数十秒前までは危機的存在だった鳥に背中を向けても、もう怖くはなかった。
「…なに?ほーほけきょ?春に鳴く?春の鳥?」
水戸部はオレにそう言った。
水戸部が、それ以外の情報をくれるつもりだったのかは分からない。
けれどオレは、それ以上どうしても待っていられなかった。
ほーほけきょ…
春に鳴く鳥…
オレの真上を飛んでいった鳩ではない謎の鳥を、名前は聞いたことのある“うぐいす”という生き物に結びつけるのに。
たったそれだけで事足りたんだ。