第13章 英雄ぶるのも大概に
●リコ side● 〜体育館〜
『てめぇ…
いま私に…なんて言った?!』
そう言うと天は、それまで背にした火神を視界にとらえようと振り返った。同時に、その顔が目に飛び込んできたバスケ部員たちに稲妻の様な戦慄が走る。
そこには、大きく見開いた眼光がギラつき、鋭い目線でこちらを睨む天の姿があった。先程までの冷静で落ち着きのある面影は全く残っていない。
「藤堂…さん?」
リコの頭の中で、スパーク音のようなものが響く。それはまるで…“本能”からの警告のように。
その目に映っている天は、リコの知る姿ではなかった。突然現れた両の目にギロリと睨まれ、それはまるで野生の獣と対峙したような感覚だった。
ドクドクッと早まる自分の鼓動が大きすぎて、気持ち悪くなりそうだった。しかし、逃げたくても脚が動かない。それはリコだけでなく、他の部員も同じだった。
自分が感じている恐怖に気づき、リコはハッキリと理解した。天がこちらに向けている、計り知れない大きな感情…あれは“怒り”だと。
少し乱暴に放り投げた鞄が、天の手を離れて床に横たわる。そして、バスケ部員たちが恐怖で動けない中、天はお構いなしにズカズカと大股で迫り始める。
天との距離が一気に縮まるその光景を前に、リコの喉からヒュッ…!っと言う悲鳴のようなものが上がる。