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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第13章 英雄ぶるのも大概に


●天 side● 〜体育館〜


『…まぁ、そういうことですので、
 私もうバスケはやらないんです』


「例えそれがマネージャーという立場であっても」と、天は念を押した。その言葉を聞いたリコは、天がバスケを辞めた“理由”が分かったような気がした。


『話し過ぎてすみません。それと』


話せること、出来ることは全てした。もはやここに居る理由もない。天は床に置いていた鞄を手に取り肩にかけた。


『2回も声かけてくれたのに
 期待に添えずごめんなさい。
 こんな私なんかに…』


天は「じゃあ、失礼します」と言うと、リコや部員たちに頭を下げ、体育館を後にするために扉へと歩き始めた。


天の周りを囲っていた部員たちも、天の動きに合わせて道を開ける。リコは遠ざかる背中を呼び止めたかったが、なんて言葉を掛ければいいか分からず、伸ばした手は中途半端に空を掴んだ。


幾つか誤解はあろうが、これでいいんだ。天はバスケ部のために誠凛(ここ)に来たわけではない。
バスケはもうやらない。やりたくても出来ない。そもそも、中学時代にチームの夢を壊した人間に、もう一度プレイする資格なんてあるわけがない。女子日本一のプレイヤーになることを期待されてた過去があろうとも。


それに、仮にバスケ部に入ったとしても、誠凛は絶対に頂点(てっぺん)へは行けない。それは設立したばかりの若いチームだから、というだけではない。たとえ誠凛(ここ)が名の知れた強豪校だとしても、全国の舞台には立てない。立てないことを、天は知っていた。


叶わない目標をなんの疑いもなしに夢見るバスケ部員たちを哀れに思いながら、光を背にした天は体育館の扉へ足を進める。


ところが、ある一言でその歩みを止めることになる。


「なんだ…どんなやつかと思えば。
 ただのヘタレかよ」


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