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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第13章 英雄ぶるのも大概に


●天 side● 〜体育館〜


天がプレイヤーではいられなくなった理由。


「全中の決勝まで
 二度も勝ち進んだあなたが、なぜ?」


「なぜ」と問われても、一言で伝えられるような話ではない。天は再び口をつぐんでしまった。
その姿を見た人は、大方「説明するのが面倒なのだろう」と思うことだろう。しかし、実際はそうではない。


天は説明出来ないのではない。説明することが許されないのだ。


理由を教えるわけにもいかず、教えられない真っ当な言い訳もない。答えに困った天の口は、ただ一言「それはちょっと…」と弱々しく声を出すので精一杯だった。


その時だった。


「んだよ、お前全国で優勝してるのか」


その声に釣られて、天は顔を上げた。声のした方を辿って視線を送ると、そこには火神がいた。そして、先ほどの声は自分のものだと告げるかのように、火神の方も天を真っ直ぐに見つめていた。


『いや…決勝には確かに出場したけど』


火神の問いに答えるようにそう言うと、天は改めてリコに向き直って続けた。


『優勝は一度もしてないですよ?私』

「えぇ、それは知ってるわ」


そのやりとりを聞いて、事実を知らなかった小金井が「えっ!?そうなの?!!」と声を上げた。


「らしいな。大会が終わった後も
 そのことでだいぶ話題になってたらしい」


天の中学は準決勝までは異例な活躍ぶりを見せ、その躍進から「優勝は間違いない」と言われていた、と伊月は語った。にも関わらず、天のチームは決勝に進出した両年とも優勝校に敗れ、全国の舞台は準優勝に終わっている。


思い出したくもないのに、こうして目の前で再び語られようとしている。記憶の中からも消し去ってしまいたいとさえ望んだのに。
あの光景は。あの地獄のような瞬間だけは。執着のように、天の中からいつまでも消えてくれない。


どのみち伊月に全て語られるくらいならば、と。事実無根な噂から、事実を誇張したり改変されて話されるよりはずっとマシだと思い、天は自らゆっくり語り始めた。


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