第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜体育館〜
食いしばった奥歯が、衝撃と同時に擦りあってギリリ…!と嫌な音を出す。
でもそれ以上に嫌なのは、バコンッ!という衝突音を、特等席で聞いてしまったことだ。
ボールの力に押されて、天の身体は正しく確実に倒れていった。
その時、不思議なことが起こった。
とてつもない痛みと、鼻に広がる鉄の匂いでどうしようもないはずなのに。
天の頭に浮かんだのは、火神 大我の鋭い眼差し…などではなくて。
なぜか、昨日の朝の出来事だった。
体育館の天井に向けられた天の視界に映るのは、天にぶつかってきたボールではなく。
大容量ポテチ。
突如として、天を襲った怪奇現象。
説明の出来ない事実。
天の目の前で、力学法則を全無視したあの大容量を。
何故か思い出していた。
きっと周囲に「ポテチ、ポテチ」と言われまくったからなのだろうと、倒れ込む間際にも関わらず天は思った。
そんなことを呑気に思っている間に、天の背中と体育館の床が、物凄く強烈な挨拶を交わした。
体の背面を殴打した天は、あたかも頭部だけを本体から外して、地面の上を転がされているような感覚だった。
目の前の景色がグルグルと回り、頭の中を掻き回されているようだった。
体育館の天井から降り注ぐ、眩しい光の下に晒された天の身体。
自分の身体が、他人の影で陰ることに気づきもせずに、天はしばらくの間、自分の意識を手放した。