第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
何事も起きなければ、それが全てだった。
それだけで十分で、他に必要なものなどなかった。
それなのに…
一晩経ただけで黒子から見える天の姿は、どんな風に変わってしまったのだろう。
天は悔やみ、そして静かに嘆いた。
それをあろうことか、黒子は…
「だから、ボクと藤堂さんは
ただの友だちです」
“クラスメイト”。
“ただの友だち”という言葉で、天を言い表した。
「友だちでいたい、ってボクは思ってます…」
“元バスケプレイヤー”、“全国経験者”。
思い当たる他のどんな言葉でもなく、“友だち”の一言。
それが天にとって、この上なく嬉しかった。
目の奥が熱くなって、視界が少しボヤけた気がした。
しかし、それを認められるほど天は素直とはいえず、物理的にあり得ないのに雨のせいだと思い込んだ。
少なからず影響を受けてしまったであろうことを、天は理解していた。
しかし過去を知ったからと言って、黒子の中で天は変わらず友だちだった。
黒子が決して譲らんとしていた思いが、天に届いたのだった。
「偽物なんかじゃ断じてない」と。
天は一つ大きく息を吸って、身体に溜まった澱みを取り除くように空気を吐き出した。
『いたいも何も、
初めから友だちだったじゃねぇーか』
そう言って天は、後ろにいる黒子の方へと振り返った。
相変わらず、降り頻る雨の中。
その真ん中で待っていた黒子は、朗らかな表情で優しく天を見つめていた。