• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜渡り廊下〜


何事も起きなければ、それが全てだった。
それだけで十分で、他に必要なものなどなかった。


それなのに…


一晩経ただけで黒子から見える天の姿は、どんな風に変わってしまったのだろう。
天は悔やみ、そして静かに嘆いた。


それをあろうことか、黒子は…


「だから、ボクと藤堂さんは
 ただの友だちです」


“クラスメイト”。
“ただの友だち”という言葉で、天を言い表した。


「友だちでいたい、ってボクは思ってます…」


“元バスケプレイヤー”、“全国経験者”。
思い当たる他のどんな言葉でもなく、“友だち”の一言。


それが天にとって、この上なく嬉しかった。


目の奥が熱くなって、視界が少しボヤけた気がした。
しかし、それを認められるほど天は素直とはいえず、物理的にあり得ないのに雨のせいだと思い込んだ。


少なからず影響を受けてしまったであろうことを、天は理解していた。
しかし過去を知ったからと言って、黒子の中で天は変わらず友だちだった。


黒子が決して譲らんとしていた思いが、天に届いたのだった。
「偽物なんかじゃ断じてない」と。


天は一つ大きく息を吸って、身体に溜まった澱みを取り除くように空気を吐き出した。


『いたいも何も、
 初めから友だちだったじゃねぇーか』


そう言って天は、後ろにいる黒子の方へと振り返った。


相変わらず、降り頻る雨の中。
その真ん中で待っていた黒子は、朗らかな表情で優しく天を見つめていた。


/ 417ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp