第10章 チャイムの鳴る前に
●黒子 side● 〜図書室前〜
唐突に、“運”などと言い出した黒子に対して、伊月の困惑は益々濃くなった。
「いや…いやいや“運”って」
「いえ、可能性だけならあります」
黒子はそう言って、窓の外へと視線を向けた。
そして、陽の光が降り注いでいた時に比べ、青がまばらになった空を静かに見上げる。
灰色が、濃くなり始めていた…
物事というのは、タイミングだ。
今回上手くいかなかったのは、きっと「まだそういうタイミングではなかった」というだけの話だ。
おそらく、それでしかなかった。
物事は起こるべき時に、起こるべくして起こる。
外野が出来ることといえば、そのタイミングをひたすら待つか。
もしくは、その時が来た時に万事上手くいくよう、準備を調えることくらいだ。
黒子は後者を選んだ。
タイミング…来るべき時は、確実にくる。
それは作り物でも、嘘でも偽物でもない。
その時を迎えるために、準備だってする。
「藤堂さん、傘持って来てないといいんですが」
「え?」
「なに?」
だからあとは…
「「 “傘”?? 」」
運が、黒子に味方するかどうかだった。
・・・・・
だから、次こそ本当にそうなった時は。
それこそ、「“来るべき時”が来た」と胸を張って言えるはずだ。
もう間違わない。
昼休み終了の、チャイムの鳴る前に。
黒子は再び、決意を固めた。