第9章 restart and redo.
●no side● 〜体育館裏〜
春の暖かな闇の中に、他の生き物の気配は感じられない。
3つの呼吸音が、その静寂さを搔き立てているようだった。
「色々あって、藤堂さんと部活について
話す機会があったんです。
その時“バスケ部の見学に一緒に行かないか”
と誘ってみたんです」
リコと伊月はその言葉を聞いて、「え…」と小さな驚きを口にする。
そして、黒子が「ボクもそう思ってました。」と言った意味を理解した。
経緯までは分からない。
しかし、リコや伊月と目的こそ違えど黒子も一度、藤堂 天を男子バスケ部へ勧誘していたというのだ。
黒子がなぜ、藤堂 天をバスケ部に誘ったのか…
それはまだ分からない。
しかし、少なくとも藤堂 天を強豪校の元レギュラーだと知った上で、その能力を当てにしたわけではないことは確かだ。
そして、黒子にバスケ部へと誘われた藤堂 天だったが、
「それで?」
「断られてしまいました」
「まぁ…そうよね」
結果は現状を見れば歴然で、その誘いを断っている。
途端に、リコと伊月の表情が曇る…
・・・・
それは、あることに気付いてしまったからだ。
いや…黒子に気づかされたのだ。
この事実を話したことで、黒子が先輩2人に伝えたかった事…
それは「藤堂をバスケ部に勧誘しても、意味のないことだ」ということだ。