第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
火神が、その心の内の成すままに、
「えっ…怖…」
と、口にした時。
自分が発したその言葉に、少女の顔が驚きで引きつったことが分かった。
またしても、火神から不審な眼差しで見下ろされることとなった少女。
言葉の出てこない唇は、ただパクパクと動くだけだった。
火神は、そんな少女の傷心にとどめを刺すかのように。
“ドカッ!!”っと音を立てて、自身の席に座ってしまった。
「阿呆とつるんではたまったもんじゃない」と。
火神はこの時、少女を完全に無視することに決めたのだ。
新生活のスタートを切るにあたって、この出会いは火神にとって、決して望ましいものではなかったのだろう。
しかし、自分にとってどうでもいい人物と関係を築けるほど、火神がお人好しではないためでもある。
だから、不本意とはいえ、今ここで少女と対面せずとも。
どの道火神は、ただのクラスメイトの一人である少女と、在学中に深い関係を築くことはなかったはずだ。
望んですらいない。
喜ばしくもない。
自席に初めて座った火神は、そんな出会いを。
今日起こった怒涛の出来事の一部として、終止符を打ったのであった。
そんな、完結の少し前…
最後に火神は、再び少女に視線を向けたのであった。