第6章 偶然目があっただけ
●藤堂 天● 〜1年B組〜
こんなに乾いた「は?」が出たのは、いつぶりだろうか?
友人に対して失礼だったんじゃないか、とも思った。
だとしても、これはもう“驚く”とかそう言うレベルの話じゃない。
言葉が正常に頭に入ってこなかった。
聞こえてるはずなのに。
だから言葉の意味を汲んだ上での「は?」じゃない。
聞き取れなかった時と同じ意味の「は?」だった。
私いま、「ありがとう」って言われたよな?
責められてもおかしくない状況なのに。
友人から「ありがとう」と、何故かお礼を言われてしまった。
東京では、これが普通なのだろうか?
だとしたら、“そもそも”が間違っていたのか?
友人の手を強く握って、痛くしてしまったことに対して私は謝罪した。
なのに責められることもなく、「ありがとう」って…
と言うことは…
初対面の人に対する挨拶は、“アレ”で正しかったのか?
マジで??
だとしたら…
やっぱ東京凄ぇーわ…
いや褒めてねぇーけど。
“鳩が豆鉄砲を食ったよう”って、こういう風に使うのだろうか?
“目から鱗”の方が正しいか??
どちらにしても、こっちは上京して1ヶ月も経たない“よちよち歩き状態”なのに。
都会の常識を遠慮なしに振りかざされて、置き去りにされてしまった気分だった。
・・・・・・・・
そして見事置き去りにされたしな?
一連の状況に呆気に取られてしまった私は。
友人の左手を、またしも逃してしまったんだ。
いつの間にかパッ!と放された左手の喪失感に、私がまたしても唖然としている傍ら。
椅子から腰を上げた友人は、小走りで教室の扉の方へ駆けていった。
実質、置き去りにされたんだ。
『あっ、手ぇ!!
ほんとに大丈夫だったのか?!』
先の「ありがとう」がきっかけで、“都民ドM説”が浮上したことで、友人の左手に関しても自信がなくなってきてしまった。
触ってみて、問題はなさそうって判断したはいいけど。
本当は痛いのに、「もう大丈夫だよ」って。
「ありがとう」って…
まさかだけど、「それがいい」って…
いや、怖…