第6章 偶然目があっただけ
●no side● 〜1年B組〜
ー同時刻ー
学舎の中に入り…
教室に足を踏み入れ…
自身の席に辿り着いた彼女が、真っ先にしなければならなかったこと。
『私、隣の席の"藤堂 天"です。
これからよろしく。』
それは、隣の席の生徒に挨拶をすることだ。
そして今、藤堂 天はまさに教室の一番後ろ。
窓から二列目の自身の席から、廊下側の席の男子生徒に声をかけた。
教室に差し込む春の光で、見慣れない顔に視線を落としたセーラー服姿の彼女の背中が温まる。
本来であれば、目の前にいる男子生徒に差し出したその左手は、天自身の影で陰るはずなんだ。
しかし、流石は新設校と言えるのだろうか。
彼女の頭上で人工的な光を発する蛍光灯は煌々と光り。
男子生徒に向けて露わにした天の掌を、明るく照らしていたんだ。
そして、
?「あぁ、こちらこそ!」
その言葉が聞こえてきた瞬間。
緊張を纏った天の心臓は、一種の呪縛から解けたかのように、普段通りの鼓動を鳴らし始めた。
分かりやすく呼吸がしやすくなったため、天はすんなりと気づいてしまった。
「あ。私いま、ホッとしてるんだ」ということを。
人当たりのいいその声が。
生き生きと返してくれた、その返事(答え)が。
今の彼女をどれだけ安心させたことか。
?「よろしく!!」
男子生徒はそう答えながら。
天に倣うように、その左手を彼女に向かって差し出した。
そして。
目の前に差し出されたその左手を、天は迷うことなく受け止めた。