第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
男バスの部活勧誘の趣旨からは、ちょっと逸れるけど…
だとしてもこれは、バスケ部の監督を担う身としては、見過ごせない案件ね。
だから決めた。
少々の私情も挟んだうえで。
ごめんなさい、ポテチちゃん。
少しだけ…我儘な先輩を許してね。
「これは一度、
確かめてみる必要がありそうね」
誰に言ったつもりもなかった。
自分を戒めるつもりで、小さく口にした決意が零れ出ただけ。
その時…
敷地内の桜林の間を縫って。
春の鳥の声が聞こえてきた。
よく知った鳴き声。
お世辞にも上手とは言えなかった。
よく知っているからこそ、勝手に評価してしまった。
ホーホケキョケキョ!という、下手な歌が聞こえてきて…
ウチの器用貧乏が、いぶし銀の肩の陰から鳴き声の聞こえる方へ。
「鳴くのも下手くそかよ…」とわけの分からない野次を小さく飛ばしたのが見えた。
そんな下手な鳴き声を合図に、春の風が舞い上がった。
私に“上を向け”と…
そうやって見上げた先には。
冬の寒さを取り払い、穢れを忘れたような快晴の蒼。
その時、気が付いた。
今ここから、私たちの長い長い一年が。
ようやく始まったんだと。