第68章 熱意の萌芽(ほうが) / 🌊・⚡️
善逸ver.
「お呼びですか? 善逸さ…」
「七瀬ちゃん!! 助けて! 君しか頼れないんだよ〜!!」
黄色頭の陰陽師に召喚された七瀬は、式神と呼ばれている存在であり、主に彼らを補佐する役目だ。
彼女を呼び出した男は我妻善逸。
大きな琥珀色の双眸から大粒の涙を流しながら、式神の両腕をガシッと掴んで悲痛な声色で訴えた。
「善逸様、申し訳ございません。お助けしたいのはやまやまなのですが、まずその理由を聞かせて下さい」
「ご、ごめん! 俺…落ち着きなくて」
「構いません。いつもの事ですし、もう慣れました」
七瀬が笑顔で言うと、善逸は掴んでいた両手をパッと離す。
彼の表情はやや赤い。
「あのね…」
「はい、どうされましたか? 禰󠄀豆子様の事ですか?」
「うん」と顔を一度俯けた後、彼はほのかに朱に染まった頬を七瀬に見せながら、ポツポツと話し出した。
善逸は同じ陰陽師の学生(がくしょう)である竈門炭治郎の妹、禰󠄀豆子に思いを寄せている。
兄の炭治郎と町を歩いていた際、禰󠄀豆子に偶然出会って一目惚れしたのだ。
「最近雨が降ってばかりで禰󠄀豆子ちゃん、髪の毛が湿気でうねって大変なんだって。良い香油ないかなって探しに行ったんだけど、見つからなくて…」
「今手にお持ちになってる香油を上質な品にしてほしい、と」
「うん、そう。さすがだね! 話が早くて助かるよ〜。因みにこの容器ももう少し大きくしてくれない?」
酒瓶を掌の大きさに縮めたような入れ物を、着用した山吹色の直衣(のうし)の懐より出した善逸。
彼は「お願いします」と掌に乗せた容器を七瀬に差し出した。
「かしこまりました」と受け取った彼女は、ふうと短く息を吐いて呪文を唱え出す。
七瀬は陰陽師直属の式神と言う事もあり、簡単な呪(しゅ)が使用出来る術者なのだ。
「—— 拡張」
するとポン、と小さな煙が二人の間に現れ、香油が入った容器が二倍の大きさへと変化した。
「善逸様、上手くいきましたよ。どうぞ」
「わあ…! すっごく良い香りだね。これって檸檬?」
「そうです。檸檬の皮を材料にしました」