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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️


🐿️

店主が隣に置いてある蜜柑を並べ直している間に、ゆずはは素早く立ち去った。驚きで瞬きを繰り返す彼の足元には【柚子・売り切れ】と先程自分が書いた紙が、落ちていた。




「はいよ、毎度あり! でも嬢ちゃん持てるか?」

「ありがとうございます。重たい物を持つのは慣れているので…平気ですよ」

午後三時。
ゆずはは八百屋の店主に言われた通り、円山町まで足を伸ばしていた。

人が多く集まるこの場所とは言え、冬至のこの時期は風邪をひかぬように。自宅で湯治(とうじ)をしたい目的で、柚子を求めて人々はやって来る。

「良かったです。買えなかったら明日また出直さないといけなかったので」

「そりゃ難儀な話だなあ。気をつけて帰れよ!家まで一時間ぐらいかかんだろ?」

「はい、だから急いで帰らなきゃ」


両手に柚子が溢れそうな程入った風呂敷を、掲げたゆずは。
彼女は店主に何度も礼を言い、店を立ち去った。







『おかしい…もうここを抜けても良いはずなのに』

——— 行きは五分もかからなかったのに。

ゆずははそんな事を考えながら、霞屋敷までの道のりを小走りで進んでいた。彼女が今いるのは、円山町へ行く際に必ず通る一本道だ。

但し、周囲は広範囲に渡って木々が密集している森である。
ここに入って十分程過ぎたあたりから、ゆずはは奇妙な感覚に囚われていた。

頭上を見てみればまだ空は明るい。
しかし、本能が異変を察知しているのだ。彼女は隊士にはなれなかったが、育手の元で一定期間訓練を受けている。

故に異変を感じる感覚は常人より持ち合わせていた。速く走れるのも修行をした賜物だ。


「やっぱりおかしい。どうしてここを出れないの?」

先程からの疑念がとうとう口から出た。
すると ———



「あんたが俺の術にかかったからだよ」
「えっ……」

後方から若い男の声がした。
ゆずははビクッとしながら、ゆっくりと体をそちらに向ける。

「飛んで火に入る夏の虫…じゃなくて、冬の甘味ってか」


薄紫色の短髪に灰色の着流しを来た男が、少し離れた場所に立っていた。男は口元に付着した血を手の甲で拭うと、ニヤリと笑う。

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