恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
「『体』の傷は、もう大丈夫でしょう」
しのぶの言葉を聞きながら、無一郎は無言で服を着た。
もしここに後から出会う炭治郎が居れば、しのぶの怒りの匂いに瞬時に反応していただろう。
身だしなみを整える無一郎を見ながら、しのぶは目を伏せた。
剣を握って、たった3ヶ月。
同じ柱なのに、無視出来ないその才能。
才能だけなら、無一郎のこの体に刻まれている傷は何だと言うのだろうか。
決して14歳で出来ないであろう、体の傷。
剣を振るうに相応しい筋力のつき方。
たった3ヶ月。
しのぶがどんなに望んでも、どんなに鍛錬しても取得できなかった鬼の首を刎ねる力。
自分より、更に幼さを残して、同じ心の傷を負い、鬼を憎むその精神。
柱になるべくして、成った若干14歳の少年。
そしてその心の闇の深さ。
この様な少年を作り出した鬼に、これ以上何を憎めば良いのだろうか。
「…立川ゆずはさんはどうですか?」
しのぶの質問に、無一郎はしばらく考える素振りをしている。
正直、しのぶの質問の意図が分からなかった。
分からないから、無一郎は率直な自分の心情を話した。
「…ビードロ玉…」
「はい?」
無一郎の言葉の意図が分からず、しのぶは思わず聞き返した。
ビードロ玉の様に澄んだ目をしていた。
声に出なかった言葉を、無一郎は飲み込んだ。
それが無一郎のゆずはの印象だった。