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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️



しのぶの言葉の意味が分からなかったが、ゆずはは屋敷の中にしのぶを招き入れた。
開けっぱなしだった土間への扉を潜ると、しのぶは何かに気が付いた様に足を止めた。

「あら、これから食事の支度でしたか?」

釜に火を焚べようとしていたのがすぐに見て取れて分かった。

「……霞柱様が今朝方お戻りになられたので…」

ゆずはは胸がドクンと鳴って、目を伏せた。
用意が遅いと言う事だろうか。
今から食事の準備じゃ、昼から来る継子を迎える準備に影響があるかもしれない。

ドクンドクンと鳴る心臓の音が、鼓膜に響いた。
自分の息が耳の中で反響して、目の前が薄暗くなった時に。


藤の花の香りがした。

「立川さん」

しのぶの袖から香るその匂いが間近にあり、顔を上げると、しのぶがゆずはの顔を覗き込みながら頭を撫でていた。

「大丈夫ですよ立川さん、ゆっくり息をしましょう」

そう微笑みながら言った、しのぶの表情を知っている。
鬼に全てを奪われ、すぐに運ばれた【蝶屋敷】で、記憶の逆行に苦しむゆずはに、しのぶは同じ様に、こうして頭を撫でてくれた。

そしてゆずはは、しのぶの笑顔と優しい手に安心して……。
同じ様に涙を流した。

「あらあら…」
「……蟲……柱様……」

しのぶの名前を呼んだら、もう涙は止まらなかった。

大きな瞳に涙をいっぱい溜めては、ポロポロと次々落ちていく。
気が付けばゆずはは、しのぶに抱き付いて声を出して泣いていた。

それでも無一郎を気遣ってか、精一杯声を殺して我慢しようとするゆずはを見て、しのぶは呟いた。

「本当に…丁度良かった…」

しのぶは泣き続けるゆずはを抱きしめながら、泣き止むまでずっと、頭を撫でていた。

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