恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第41章 I want to be scarlet / 🔥
「君は本当に触り心地が良い」
「もう……びっくりしますよ」
抗議の意味を込めて、じいっと私は後ろにいる彼に睨みの視線をやった。するとそんな私を特に気に留める事なく、今度は右耳に甘い口付けを1つ落とす杏寿郎さんだ。
「七瀬、何度も言うが…その顔は全く怖くない。むしろもっとしたくなるぞ」
「んっ……」
左頬が大きな掌で包まれ、彼の顔が目の前に現れた —— と思うと私の唇に触れたのは恋人の柔らかな唇。
ちぅ、ちぅ……と複数回啄まれた後、最後に大きく吸い上げた彼は私の右頬にピタッとその滑らかな左頬をくっつけて来た。
「今日の稽古もよく頑張ったな」
「ありがとうございます」
幸せだなあ……。
私は結局のぼせる直前まで杏寿郎さんとの湯浴み時間を堪能した。
カン———
次の日の早朝5時半。
煉獄邸の庭にて、私は朝稽古を杏寿郎さんとしていた。師範の彼は恋人の時のような甘さはゼロで厳しさ全開。当然手加減も一切なし。本気で私を倒そうと容赦なく攻めて来るのだ。
ガンッ! ガンッ! ————ガンッ!!
彼の木刀から放たれる速く重い太刀が真上から、斜めから3回私を襲う。
『んっ……本当にこれで呼吸使ってないなんて信じられない』
手首の捻りも利用して木刀を振り、その太刀を全てひるがえした後は一度後方に飛び退く。
「炎の呼吸—— 壱ノ型 不知火」
グッと腰を深く落とし、呼吸を炎に変え、炎を纏った木刀を真横に振った私は彼の間合いに入り込む。
「炎の呼吸———弐ノ型 昇り炎天」
杏寿郎さんの木刀が上段から下段に円を描き、燃える輪で不知火を相殺した。
「参ノ型 —— 気炎万象」
「肆ノ型 —— 盛炎のうねり」
続けて参ノ型を放てば、肆ノ型で再び相殺される。
『結構呼吸の威力上がって来たのにな……』
先日階級も上から3番目の丙(ひのえ)まで上がったのだが、1番上の甲(きのえ)、そして柱の称号を持つ杏寿郎さんには全く及ばない。
その後も攻めては払い、受けては攻めを繰り返していたが、結局この日は彼の得意の型である伍ノ型に仕留められ、私の木刀が折れてしまった所で地稽古が終了。
それから道場に移動した私達は締めの腕相撲をやる。勝敗は400回中、0勝400敗で私の完敗。不甲斐ないにも程がある。