第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
ーーーバキャッ‼︎
突然の破壊音。
ハッと顔を上げると、不死川が立っていた。そして…
衝立が無い。
なんと、我慢ならなくなった不死川はそこにあった衝立を蹴破ったのだ。
哀れな衝立の残骸がその辺に散らばっていた。
遮るものはもう何も無い。
遂に御対面してしまった俺達。
「よォ瀬田ァ、久しぶりだなァ」
「こんばんは、竹下さん。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
瀬田と竹下はさぞ驚いた事だろう。
たまたま入った居酒屋でこんな事になるなんて。
2人共血の気が引いていた。
「しっ不死川!久しぶりだなぁ…元気だったか⁈」
「胡蝶さん!あああのぉ、こんばんはぁ…」
「随分仲がよろしいんですね、お二人共」
「さっきっから胸糞悪りィ話ばっかしやがってよォ…」
「いや!さっきのは…なんていうか…」
「本心じゃ無くてですねぇ!」
怒気をはらんだ不死川と胡蝶の凄みに押され、2人共尻込みしている。
「オイ瀬田ァ、お前今日出張じゃなかったのかァ?」
「!…あ〜…、そうそう!今日は無くなったんだよ!で、時間が出来たから飲みにでも行こうかなーなんて…」
「へェ、そォかい…」
「ひっ…!」
不死川の青筋がビキッとさらに増える。
俺も瀬田の煮え切らない態度に頗る腹が立っていた。
この期に及んでまだ誤魔化そうとしているのかこの男は。
「そういえば冨岡さん、確か今日竹下さんに何か貰ったんでしたよね。使わないようでしたらお返ししたらどうでしょう?」
「あぁ、そうだな。竹下、これは返そう。俺は物をもらってもお前に特別優しくするチョロい男ではない」
「っ…」
しっかり聞かれていたのだと悟った竹下。
もはや何も言い返せないようだった。
「え、そのハンカチ…俺にくれたのと同じヤツじゃん。どういう事⁈」
「あ!…そのぉ……」
物をやっとけば優しくしてくれる男。
餌を撒いたら寄ってきた魚のように、
瀬田は竹下に見事に釣られたのだ。