第1章 一度見た世界
ハンネスさん達に連れられた後、私達はトロスト区行きの船に乗せられた。
普段なら行くこともない場所。
そこは既に人が渋滞していて私達と同じようにトロスト区への避難民で溢れかえっていた。
しかし限られた数しかない船では全ての避難民を乗せる事は出来ず、どの船でも既に満員だと多くの避難民が搭乗を断られている。
私達はハンネスさん達のお陰でその残り少ない数の乗員としてこの船に乗る事が出来たのだ。
同じく船に乗った避難民達の顔は恐怖で染まっていた。
誰もが絶望に陥り、船が出発するまでの間震えているしかない。
そんな最中でもウォール・マリアを警護する兵団達の怒鳴り声や叫び声で緊迫した状況が続いていた。
「巨人が突っ込んで来るぞ‼︎」
「阻止しろ‼︎」
「なんだこいつ⁈武器が効かない──」
兵団達がそう叫んだ瞬間、物凄い轟音と共にウォール・マリアの壁に穴が空き、その中から鎧のような物を纏った巨人が突っ込んで来た。
今までに見た事のないタイプの巨人。
確実に壁を壊すという目的を持った巨人。
まるで私達人間のように───。
その巨人によって引き起こされた突風と衝撃によって近くの大砲やウォール・マリアを警護していた兵団達も吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたウォール・マリアの象徴は人々に深い絶望を植え付ける事になる。
「ウォール・マリアが……‼︎突破された…⁈」
「おしまいだ…また…人間は…巨人に食い尽くされる……」
誰かが呟いた言葉は正にこれから起こるであろう現実だった。
これは夢ではない。現実だ。
エレンがずっと恐れていた事態が起こってしまったという事実───。
「…駆逐してやる‼︎」
突如隣から聞こえた声はエレンのものだった。
エレンは息を荒くし、涙を流しながら鎧のような物を纏った巨人の方を強く睨みつける。
「この世から…一匹…残らず‼︎」
いつの間にかエレンに強く握られていた私の手は彼の巨人へと向けた激しい憎悪が籠っているように感じた。
骨が軋む程に強く。強く痛む。
痛い。酷く痛む。これは
─────、"誰"の痛み?