第1章 一度見た世界
「ありがとう…」
そう言い涙を目に浮かべ安心するカルラ。
そこへ新たにもう一人の立体機動装置を身に付けた男性がやって来る。
「巨人が…⁈ハンネスさん、ご無事でしたか!」
「あぁ…!ダニアすまねぇがこの嬢ちゃんをよろしく頼む!」
ハンネスがその男性、ダニアにそう言うと彼はエレナを抱えた。
すると瓦礫に挟まれているカルラに気づく。
「あの女性は…」
「分かるだろ」
彼女を見捨てる選択肢しか選べない事にダニアはそっと目を伏せ、悔しそうな顔をした。
「オ…オイ⁈ハンネスさん⁈何やってんだよ‼︎オイ…母さんがまだっ」
「エレン‼︎エレナ‼︎ミカサ‼︎生き延びるのよ…‼︎」
カルラの脳裏に楽しかった家族との日々が思い浮かぶ。
特別な事は無くても幸せだった日々。
夫のグリシャがいて、エレンもエレナもミカサもいる。
そんな毎日だった事を今思い出して、母親として子供を守ると責務を果たすと決めた彼女の心に唯一溢れ出した弱さ。
「行かないで───…」
エレナの瞳に色彩が戻る。
意識を取り戻したエレナが巨人の大きな手に掴まれたカルラの方を見ると目が合う。
カルラが手を伸ばし、最期に見ていたのはエレンでもミカサでもなくエレナだった。
その彼女の表情は己が死ぬ事への絶望でも先程心に溢れ出してしまった深い悲しみでもなくエレナへと向けた"憐れみ"────、
『ごめん…なさい……』
自然と己の口からその言葉が溢れた。
私は謝らなければならない気がした。
誰に?お母さんに。
でも違う……、
お母さんだけど…お母さんではない誰か。
私は一体誰に謝りたかったの……?
「やめろぉぉおおお‼︎‼︎」
ピクリとも動かなくなった。
食われた。死んだ。
あぁ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいあな──い─ちをむ───て─め───い