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彼女の声よりもずっと

第1章 相澤消太は恋に落ちる


その後も、いつも以上にテンションの高い山田が大部分を占める形で飲み会は進んでいく。

 




会計も終わり、駅まで彼女を送り届けたところで彼女は俺に話しかけてきた。





「相澤さん、今日はありがとうございました。楽しかったです」





彼女はそう言うと軽く頭を下げた。
そして顔を上げたとき、目が合ってしまう。






とても澄んでいて、綺麗な目だった。




俺とは正反対だな、なんてことを考えて目を逸らしてしまう。




「いえ…俺っていうか、山田がほとんど喋ってたし」



ぶっきらぼうにそう返すと彼女はくすりと笑った。



「じゃあもう遅いし気をつけて帰れよー」



山田がそう言って手を振ると改札の向こうで彼女も手を振っていた。






二人でそれを見送り、帰り道を歩いていると山田が話し始める。


「どうだった?詩ちゃん、かわいいでしょ」

「まあ…うん」

「なんだよその反応、あの子すごいんだぜ?」




そう言われ意味が分からず山田の顔を見た。
そんな俺を見て山田は大袈裟にため息をつく。




「お前今日本当に何も聞いてなかったんだな?!ビックリだよ?!」

「…ったく、なんだよ」




俺がそう言うと山田は“待ってました”というように息を整える。




「今一番キてるシンガーソングライター、最近じゃCMソングとか映画の主題歌にもなってる」

「そうなのか?」




俺がそう言うと山田は携帯で動画を見せてきた。




その動画にはギターを弾きながら楽しそうに歌う彼女が映っていて、信じられない程の再生回数の数字が表示されている。





「あの子の曲は不思議なんだよ、どんな人でも惹きつけられる」

そう言って画面を見る山田は何だか嬉しそうだった。




その顔を見て胸の奥がざわついてしまう。




「俺のラジオにゲストで来たときは詩ちゃん目当てに他のラジオのスタッフも集まってきて、ほんと大変だったんだよ」

「そんなにか」

「きっとあの子はもっと上に行くよ」




そう笑う山田はきっと彼女を思い出している。


恋をしている人間特有の…その顔






ああ、だめだ。
この気持ちはきっと口にしてはいけない。





楽しそうな山田を見て、
俺の気持ちには自然とブレーキがかかった。
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