第25章 過去
「いらっしゃい、千冬」
インターホンを押せば、部屋の主が扉を開けて迎えいれてくれた。
「おじゃまします」
「ごめんね、狭いとこだけど」
この間色々あって仲直りした時にさんが家に泊まりにおいでといった。
ただの社交辞令かもしれないが、俺としてはそれで終わらせたくはなかった。
『さん、いつ泊まりにいっていいですか?』
『いつでもいーよ、今日でも明日でも』
『じゃあ、今日泊まりたいです。今から行っていいですか』
『うん、まってる』
そんなメールを交わしたのは今日の朝の事。
送られた位置情報を頼りにたどり着いたのは古いアパートだ。
「荷物置いたらさ、ちょっと手伝って欲しいことがあるの。いい?」
「いいですよ、何するんですか?」
「ちょっと廃ビルの整理したくてさ。物運んだりゴミ捨てるの手伝ってくれる?」
「他の人にやらせないんですね、そういうの」
「え?そりゃそうでしょ!出入り自由って言ってるけど、結局俺が一番使ってるんだもん。だからお掃除しなきゃ」
さも当然のように、そう答えて微笑んだ。
この人の、こういう人間性は心からカッコいいと思う。
廃ビルのいつもの部屋に到着し、さっそく清掃に取り掛かった。
といっても元より部屋は整頓されているため、直ぐに終わりそうだ。
「ごめーん、これ右隣の部屋の机の上に置いてきてくれる?」
どうやらこの部屋の右隣が物置になっているらしい。
「わかりました」
たいして重くないダンボールを抱え、隣の部屋に向かった。
目的の部屋に行き、テーブルの上にダンボールを置く。
しばらく辺りを見回すと、気になる物があった。
「これって……」
目に入ったのは、トルソーに飾られたDES・Rowの特攻服。
それも総長専用の学ランだ。
しかし、さんのにしてはサイズが大きい。
背中をみると、"初代総長 秋"の刺繍がされていた。
「………さんの、お兄さん…」