第21章 刹那
隆くんと勢いでセックスをした。
勢いというと語弊があるかもしれない。
確かにあの時、この人になら初めてを捧げていいって思った。
まあ、その場の性欲に負けたのもあるが。
『なあ、なんでああいう事誰とでもできちゃうんだよ』
知らないよ。俺だって分からない。
隆くんの言葉を思い出すとイライラする。
ふぅ、と一息ついてカフェオレを一口口に含む。
今はテスト週間中で、学校は午前中に終了。
そのままいつもの廃ビルの一室に向かい、のんびりしていた。
外観は古いビルだが、この室内は綺麗にしているし、冷蔵庫にテレビ、ゲーム等色々と置いている。暇を持て余すにはピッタリの場所だ。
なんだか少し眠くなり、ソファに横になる。
テレビをつけワイドショーをぼーっと眺めていると、扉からノック音がした。
「?だれー?」
「オレ」
万次郎の声だ。
起き上がり、扉を開けて中に招く。
「いつも急だなあ」
「ジュースねえの?」
「あのねえ!」
どこまでもマイペースな男だ。
東卍の佐野万次郎。通称マイキー。
東京で最強の中学生は誰か、という話題になると大体俺派と万次郎派に別れるらしい。
個人的には万次郎の方が強いと思っている。
万次郎は小柄ながら、体も鍛えられていて力もあるし体力もある。
一方俺は、力も体力もあまりない。それを持ち前の体幹と技術でギリギリ補っているに過ぎない。
「で、何しに来たの」
「用事がないと来ちゃダメなのかよ」
「そ、そうじゃないけど…」
加えてこの威圧感だ。
流石の俺も万次郎の圧に根負けすることがよくある。
例えば、ドサッとソファに押し倒されてる今みたいに。
「……なにしてんの」
「誰とセックスしたんだよ」
「…………は?」
言っている意味がわからない、いや意味はわかるが、唐突すぎて状況を把握できていたい。
驚いて固まっている俺の項を、万次郎が指で触れた。
「キスマーク」
「…え」
俺が眠っている間に隆くんが付けていたのだろう。
自分では見えにくいところだったから気づかなかった。
「………内緒」
「ふーん、お前ほんとビッチだな」
二日連続で言われたビッチというワードにそろそろ心が折れそうだ。
「…ビッチじゃないよ、その人としかセックスしたことないもん」
「あ?」
怖い。万次郎のキレ気味の声は背筋が凍る。