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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



(………良かった、怒ってはいないみたいだ)

自分が天邪鬼な性格で、尚且つぶっきらぼうな物言いをしてしまう事があるなど、よく分かっている。意図せず咄嗟に口をついて出た言葉を後悔した家康だが、凪はいつも通りに接してくれている。その事実へ安堵し、顔を逸らしたままで控えめに言葉を発した。

「……どうせ後で分かるから、今は内緒」
「内緒?」

家康の口振りへ目を瞬かせていると、奥で二人のやり取りを見ていた若旦那がくすくすと涼やかに笑いを零す。何とも初々しい、そんな言葉が今にも降って来そうな気配を滲ませ、彼は首を軽く傾げた。

「お嬢様は大層武将様方から気に入られていらっしゃるのですね」
「え!?そんな事ないです…!」
「そうでしょうか?私はそのようにお見受け致しましたが…その御姿も、とても愛らしくていらっしゃいますよ」

突然そんな事を言われて平静でなど居られる筈がない。驚きつつ謙遜した凪が、思い切り首を左右へ振る。しかし若旦那は相変わらずの笑みを浮かべ、ただ穏やかに嫌味なくさらりと言ってのけた。小さく肩を揺らして笑みを零す様は実に上品であり、普通の女性ならば一瞬で心を奪われてしまいそうな優雅な魅力がある。そんな彼が灰色の眼を静かに眇め、柔らかな視線を注ぎながら、そっと唇を動かした。

「芙蓉」
「!!」
「─────…の、簪もとてもよくお似合いでございます」

芙蓉の言葉に反応を示してしまった凪が、静かに息を呑んだ。凪が摂津で使っていた、芙蓉という偽名を知っているのは、この安土では光秀以外に居ない。凪の様子に気付いた家康が、三成から先程伝えられた事実を思い起こし、翡翠の眸を眇める。

────あの若旦那と呼ばれる方は、毒将、中川清秀に何処か面影が似ているのです。

(俺は毒将に実際会った事がないから気付けなかった。光秀さんの様子が妙だったのが、この男の所為だったとはな)

凪の面持ちが幾分強張った事に気付き、家康が言葉を発しようとした瞬間、店内へ足を踏み入れて来た光秀が、背後から凪を呼んだ。

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