第13章 再宴
「……ああ、そうだな。全て俺の所為だ」
柔らかい音が零れ、幾度かとん、とん、と胸を叩く凪の痛くもない拳を片手で優しく握り込んだ。腕の中に掻き抱いた凪の後頭部へ添えた片手で宥めるように幾度も撫ぜ、乱してしまった前髪付近へ唇を寄せる。
腕の中へ収まった凪は抵抗らしい抵抗を見せず、いまだ荒い呼吸を整えていて、酔いと衝撃で疲れてしまったのだろう、ゆるゆると長い睫毛が伏せられれば次第に力が抜けて行った。
やがてくたりとした腕の中の華奢な身体に気付き、どうやらそのまま意識を手放してしまったようだと見て取った光秀は、一度だけ回した腕へ力を込め、凪の身体を閉じ込める。
瞼を伏せつつ、しばしの間そうしていた彼は再び双眸を覗かせ、燻った熱を押し殺した後で彼女の身体を優しく横抱きにした。
足元に落ちていた真白な芙蓉を拾い上げ、耳の上へ挿してやると吸い寄せられるかの如く唇へ自らのそれを重ねようとし、間際で向かう先を額へ変える。
「俺にこうも余裕を失くさせるとは、お前くらいなものだぞ…小娘」
苦笑と共に乗せた皮肉は生憎と眠る凪には聞こえない。腕の中で静かな寝息を立てる凪へもう一度だけ、額へ触れるだけの口付けを落とし、光秀は夜闇の中を静かな足取りで歩いて行ったのだった。