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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 序





XXXX年6月21日。
────その日は朝から雨が降っていた。


眼前で焔がちらつく。
視界に映り込んでいるにも関わらず、焼け付くような温度を感じないのは、それが今目の前で起こっている出来事ではないからだ。
陽炎のように揺らめき、輪郭を失くしたその中で漆黒が翻る。
外套と思わしき布を片手で煩わしそうに払い除け、炎と黒煙が混じり合うそこで、一振の刀を手にした男が白刃を振り向きざま、真一文字に薙いだ。
その瞬間。

(───あ…っ、)

どくりと鼓動が緊迫に跳ねた。
温度は感じない。一面が煙に満たされているにも関わらず、息苦しさもない。
当たり前だ、眼前のそれは自分にとって現実ではないのだから。
スクリーンを通さない、とてもリアルな映画のワンシーンさながらのそれを前に、自分はいつだってただの傍観者に過ぎない。
その、筈であったのに。

(今、目が合った…?)

ほんの一瞬の事である。
男が白刃を振り薙いだ刹那、彼はこちらを見て怪訝に深紅の眸を眇めた。形の良い眉が厳しく顰められ、まるで見咎められたような心地になる。
早鐘を打つ心臓に合わせて呼吸が乱れた瞬間、ぐっと引き剥がすように瞼を閉ざした。
同時に視界は真っ暗に塗り替えられ、チカチカと光が弾けるような苛烈な赤が消え失せる。
再び目を開いた時には、そこにあったのは常と変わらぬ見慣れた飾り気のないワンルームだった。

「なに、さっきの…」

気付けば硬く握りしめていた両の拳をそっと開き、胸の辺りへ利き手を宛てがう。
数度深い呼吸を繰り返して、早鐘を打っていた心臓を落ち着かせた後、振り仰いだ時計が指し示す時刻に、今度は別の意味で目を見開き、引っ掴んだカバンを片手に慌てて自宅を後にする。

外はいつから降り始めたのか分からない、強めの雨が降っていた。
透明なビニール傘を広げて飛び出したマンションのエントランスの外。大通りに面した歩道をいつも通り左へ曲がった先で何故か衝動的に思い出す。

今日、XXXX年6月21日が、旧暦でいうところの6月2日であった事を───。


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