第2章 軍議と側仕え
適度に収納性の優れたオフホワイトのショルダーバッグは通勤用のもので、中にはスマホや充電器関連のものと化粧ポーチや財布、解熱鎮痛剤と靴擦れ対策用に大小それぞれのサイズのバンドエイドが数枚、常用の目薬、筆記用具とメモ帳、それから。
「コンタクトケースに保存洗浄液…と、」
ひやり、と冷たい汗が背筋を滑り落ちたような感覚が凪を襲う。
バッグの中には、二冊の本が入っていた。
一冊は自身の趣味であるポケットサイズの薬草図鑑。そしてもう一冊はあの日約束していた友人から無理やり布教用にと渡されており、ちょうど一通り目を通したからと返そうとした。
(『フランクに紹介する有名戦国武将・安土桃山編』…!!)
実にひょうきんなタイトルの本ではあるが、ピンポイント過ぎるそれに顔色が青くなる。
────…戦国時代初心者の凪が入りやすいように、小難しいヤツじゃなくてめちゃくちゃ今風に分かりやすく簡潔にまとめた本をチョイスしたから!気になった武将いたら教えてね!
と、とても良い笑顔で本を貸してくれた友人を少しばかり恨めしく思った凪は、げんなりとした様子で何度目か分からない溜息を漏らした。
分厚いと萎縮してしまうと思ったからか、薄めの本の中身は確かにタイトル通りフランクで、有名武将に関する解説とは思えない程とてもざっくりしたものだった。
(他のものもそうだけど、多分あの本が色んな意味でヤバいよ…!)
何がどのようにしてヤバいのかは推して知るべし。
あのざっくりフランクな解説をどこまでこの時代の人間が理解出来るかはさておき、武将達の名がフランクな肖像画と共に載ったそれは、その部分だけを見ればビンゴブックのように見えなくもない。
ただでさえ色んな意味で疑われているというのに、そんなものを所持していると知れたら大変だ。
「私の荷物を勝手に持って行きそうな人といえば…豊臣秀吉と、明智光秀の二人のくらいかな」
大して武将達と接していないものの、あの会議でなんとなく表面的には人となりを理解したような気がする。
しかしながら名を挙げた二人の内、豊臣秀吉の可能性は直ぐに消え去った。
先に考えた通り、あそこまで明確に凪を疑っているのだ。本の存在を目にすれば、確実に間者か何かだと言われ、きっと無事ではいられない。
となれば残るはもう一人。