第4章 侵蝕
6つの祈りが集うギルドの中。とぐろを巻いていた大蛇に向かって女が問う。女はこのギルドの傘下に属する組織の者だ。
「キュベリオス、貴方のご主人様は?」
静かな空間に女の静かな声音が木霊する。大蛇はしばらくじっと女を見ていたが、やがて興味を失ったようにシュルと小馬鹿にしたような音を出すと、とぐろの中にその大きな頭を入れ込んだまま動かなくなった。
なんて尊大な態度をとる蛇なの、とわずかに眉をひそめたところで背後から声が聞こえ振り向いた。
「聞こえてるぜ、キュベリオスに対するその考え。」
「コブラ様。」
「で?今月の上納金は?」
「こちらに。」
「ああ、次から上納金要らねぇから。」
女が差し出したアタッシュケースを受け取りながら毒を纏う。女の心拍数が急上昇したのが聞こえた。
「コブラ様…それは」
「今頃お前のギルドの連中は死んでるだろうな。」
女の細くて白い首が僅かにひゅっと音を鳴らす。その白を紫が徐々に侵蝕する。女の瞼が光を遮り、その身体が床に沈もうとしたところを腕で支える。
「ん…。」
「お、起きたか。」
ベッドサイドに腰かけてキュベリオスと戯れていたコブラが見える。
自分は確か、毒に侵されたのでは…?
「あれは殺すための毒じゃねぇ。ここに連れてくるまでに抵抗されても面倒だからな。気絶させただけだ。」
「私を連れてきてどうなさるおつもりですか?」
「お前の魔力を見込んでブレインが抜擢した。六魔へ。」
そんなことでわざわざ傘下の者を連れ去るなんて…
「後は、オレに気に入られたってとこかな。」
「コブラ様が…私を?」
蛇のような双眸に捉えられる。
逃れられない。そう思った。それと同時にこの人に侵蝕されることに歓びを感じつつあることに気付いた。
「そうだ、それでいい。お前は俺のモンだ。」