第8章 疼痛
いつもは心地良いと感じるギルドの喧騒も今日は頭に響く。予定日よりもずっと早く訪れた下腹部の違和感は時間を経るごとに鈍痛に変わっていった。
今日に限っていつも常備している痛み止めは効果を発揮してはくれず、ただただ痛みは増すばかりで立ち上がるのも億劫になってきた。
「リア、ひどい顔色よ?大丈夫?」
「ルーシィ…。ちょっと予定日よりも早く来ちゃったみたい。」
腰をさすりながらそう言うと、察しの良い彼女はすぐに状況を理解してカウンターからお湯を入れたペットボトルを持ってきてくれた。
「ありがと。」
「家まで帰れそう?ラクサス呼びましょうか?」
「うーん…」
もう最後の言葉は耳に入ってなかった。テーブルにくっつけた額が冷たくて気持ちいい。遠くでラクサスーと呼ぶルーシィの声がする。
「…い、おい。起きれるか。」
「…無理そう。」
「ちょっと待ってろ。」
「…優しくして。」
「分かってる。」
「ありがとね、ラクサス。」
彼が抱き上げてくれようとしているのが気配で分かったからそう頼む。今は恥ずかしさとかを気にしていられないほど鈍痛は酷くなっていた。いかんせん、雷になって飛ばれると揺れが酷くて戻してしまいそうだった。
家に着くまでの道のりはとても快適だった。急ぎながらも極力揺れないように配慮してくれているので、その歩調は自然と大股になりゆっくりとしたその揺れが心地よかった。何より暖かく体を包む腕に安心した。
まどろみの中にいるとふと背中が柔らかいものに包まれるのを感じた。次いで意識が浮上したところに、大きなソファーに寝転ぶ私の足元が沈む感じがする。
「…ラクサス。運んでくれてありがとう。」
「まだ痛ぇか。」
「うん、結構ヤバい。」
かすかに呟くような声でも彼は拾い上げてくれる。もう少し眠ろうかと再びそっと目を閉じてしばらくすると、彼の方から衣擦れの音がして下腹部にじわりと暖かさ感じた。彼の体温の高い大きな手が腹部をゆっくりと行き来することに意識を向けていると、鈍痛が幾分か和らいだ気がした。
「寝てろ。」
「もう少し擦っててくれる?」
「ああ。」
こんなに甘やかしてくれるならもうこの鈍痛が治まらなくてもいいかも。なんて悠長なことを思ってしまうのはきっと下腹部をぎこちなく擦る手の温もりのせいだ。