第8章 大切で残酷な暖かい過去
レティシア
「大きくなってるの…少しずつ」
ユリス
「あ、確かに…」
出会った日はレティシアの膝に収まるくらいの大きさだった筈のジルヴァの身体が、少女の膝からはみ出そうなくらい大きくなっている事にユリスは言われてから気が付く
ユリス
「…お前、小型魔獣じゃねぇな」
ジルヴァ
「…にゃう?」
レティシア
「どういう、事…?」
ユリス
「野生に大型魔獣がいるだろ」
レティシア
「絵本で、見た事ある…」
ユリス
「ジルは、それと同じだ」
レティシア
「ぇ…じゃあ、ジルと…離れなきゃいけないの?」
段々、感情と表情がリンクするようになってきた少女の紫の瞳が揺れ、隣に立っていたジルヴァをレティシアは抱き締める。
その姿を見てユリスは本を閉じ顎に手を添えて考え
ユリス
「…これしかねぇか」
1つの案を思い付けばユリスはソファから降り、床に膝をついてレティシアを見る
ユリス
「良いか、今から説明するからちゃんと聞けよ?」
レティシア
「…うん」
ユリス
「俺がお前の手の甲に証を刻む」
レティシア
「あかし…」
ユリス
「お前がジルの飼い…友達だって、示すものだ」
レティシア
「…うん」
ユリス
「それから、お前がジルに大小変化する魔法をかける。で、手の甲の証にお前の魔力を流し込む」
レティシア
「ジルに…魔法かけるの?」
ユリス
「安心しろ。ジルは魔獣だ、それくらい大丈夫だ。…ジルと離れたくねぇだろ」
彼に魔法をかけるのは嫌だが、離れ離れになるのはもっと嫌だと思ったレティシアはユリスの言葉に頷いた
ユリス
「その手の甲を晒したままだとジルは大きく戻っちまうからな、小さいままで過ごさせる時は手袋をするんだ。…後で買いに行くぞ」
レティシア
「…うん」
ユリス
「大丈夫そうか?」
レティシア
「ん…。でも、私…その魔法、失敗したくない」
ユリス
「大丈夫だ。ちゃんと教える」
力強く見詰める黄色い瞳にレティシアの不安は薄まり、しっかりと頷いてから小さく息を吐き出した