第8章 大切で残酷な暖かい過去
その事があった日から部屋に訪れる者が居なくなった。
食事を持ってくる使用人さえ来なくなったのだ。
理由はとても簡単で…母がそうさせたから、家には置くが面倒は誰にもみさせない、そういうの事だろう
そうなればレティシアにとっては好都合でしかなく、本格的にユリスの家で寝起きするようになると、ある日ユリスはレティシアを見て声を掛けた
ユリス
「レティシア」
レティシア
「?」
ユリス
「今日からは俺がお前の親だ。分かったな?」
レティシア
「……ユリスが、親…?」
ユリス
「何だ。不満か」
レティシア
「…ううん、違う……、嬉しい…」
出会った頃は家に居る事を嫌がり、子供は面倒だと言っていたユリスだったが、今ではレティシアが居るのが当たり前の様で嫌がったりせず…遂には親代わりになると自分から告げたのだ
ユリス
「違う!そうじゃない、レティシアっ」
レティシア
「…っ、ごめんなさい…」
ユリス
「あー、いや…悪い」
魔法を教え、筋が良いレティシアに思わずユリスは熱が入り声が大きくなってしまうと、家を出てまだ間も無いレティシアは身体を震わせて固まってしまう為、その度にユリスは慌てて謝罪する
そんな生活も1ヶ月が過ぎた頃─…
ユリスとレティシアの瞳は全てを諦めた様な濁っているものでは無くなっていた。
境遇は全くと言って良い程、似てない2人だ。
頑張れる事も必死になる事もなく退屈な人生を諦めていたユリスと母の暴力から抜け出せないと諦めていたレティシアが出会って、過ごした事によって変化が起きたのだ
それは2人にとって凄く大きな変化であった
レティシア
「ねぇ…ユリス」
ユリス
「何だ」
レティシア
「ジルがね…おかしいの」
ユリス
「そうか?元気そうじゃねぇか」
本を読んでいるユリスの邪魔をしないようにレティシアはジルヴァと庭で遊んでいたが、最近ずっと気になっていた事を聞くために部屋に戻り控えめに声を掛けた
だが、ユリスはどこがおかしいのか分からず首を捻る