第1章 【氷月】ちゃんとお嫁に来て下さい
仕方なく、懐から以前用意していた物ーー青く輝くロザリオを出した。自分の瞳と同じ色の物。キラキラと輝くそれを、桜子の手のひらにのせる。
わあ、と嬉しそうな声を出した。
「婚約指輪ならぬ……なんだろね、これ」
「知りません」「じゃあ婚約記念のプレゼント!ありがと、はいコレ」
そう言うと、桜子は幼少期から肌身離さず持っていた胸元のロザリオを首元から取ると、氷月の手のひらにのせた。
「……これは」「私の心みたいなもの」
「……要りませんよ、そんな……」彼女の大事な物を、自分が持つなんて。
「だって氷月は、すっごい『ちゃんとした』お婿さんでしょ?私の事、迎えに来てくれたし。……今なら分かるよ、氷月の言う『ちゃんとしてる』ってやつ。」
お見通しなのだ。目の前の『ちゃんとしてる』軍師には。
はあ、と溜息をつく。
「仕方ありませんね。……こんなの、どうせ貰い手も居ないでしょうから、私が預かりましょう」
「うん。……言わなくてもしてくれると思うけど、ずっと大事にしてね」桜子が笑うと、本当に疲れきっていたのだろう。直ぐにスースーという規則正しい寝息が聞こえて来た。
「……君に言われなくても、ちゃんと大事にしますよ、桜子。」
そう言いつつ、氷月は手元に残った銀のロザリオを握りしめた。
〜〜Fin〜~