第4章 gelato【ジョルノ】
「ねえジョルノ、両片思いの期間って無駄だと思う?」
プラスチックスプーンでジェラートをつつきながら、彼女は呟いた。
彼女との関係を端的に表すとすれば『ハイスクール時代の級友』といったところか。もっとも、そう思っているのは彼女だけで、僕は彼女をそんな目で見てはいないが。
今日、行きつけのジェラテリアで彼女が購入したのはカッフェとビターチョコレートだった。
いつもはフラゴーラかブルーベリーなのに。
「急にどうしたんです」
「恋人に言われたの」
「なるほど」
彼女の話によると、最近付き合い始めた恋人に付き合う寸前『両片思いの期間は無駄だ。だから早く付き合いたい』と言われたらしい。いっぱしのイタリアーノとしてはいかがな発言かと思うが、なるほど極めて合理的だと僕は思った。
互いが互いを想い合っているというのに付き合わないよりかは、さっさと告白して二人の時間を増やした方がいいに決まっている。組織を束ねるボスになった今となっては、存外無視もできない事柄だ。思い当たる節がありすぎて、なんなら既に頭が痛い。
「まぁ、無駄なのかもしれませんね」
「やっぱりジョルノもそう思うのか~……」
自分で聞いておきながら、心底不服そうな表情をしてみせた彼女は腹いせとでも言うようにジェラートにかぶりつくと、一言「苦ッッ」と声を漏らした。
「さっきから疑問なんですけど、あなた苦いものは苦手なのに、どうしてカッフェとビターチョコなんて頼んだんです?」
「恋人が大人だからだよ。ほら、彼がブラックコーヒーを飲んでる横で、オレンジジュースだなんてみっともないじゃあない」
「全く、相変わらず無駄な配慮をする人だ」
「理詰めのジョルノには一生乙女心なんて分かりっこないわよ」
「えぇ、本当に理解に苦しみます」
どうしたってそんな男と付き合っているのか、僕には全く理解不能だった。彼女が堅気の男と付き合って、幸せならそれで諦めだってつくはずなのに。