第3章 謎の女性
「あはは。もういいや、縄なんか。」
そう言うと、西園寺羽京は縄を解く。解かれたクロムに賞賛の言葉をかけるものの、警戒は解けない。
それはそうだろう。先程まで自分を捕まえて話を聞き出そうとしていた人物に、心は開かない。
ーー僕が駄目なら……羽京は静かにその時を待つ。
(…来た。意外と早いなあ)
音を捉えると同時に、はぁ、はぁと全力疾走する彼女ーー葵の声がする。
「羽京君~…!待って下さいよ…!何があったのです…?」
心配そうにこちらを見つめる葵。突然の美しい闖入者に、捕虜となったクロムもあっけに取られる。
白銀の長い髪に、蒼い瞳。ワンピースにポンチョ。儚げな美人だが、正直生粋の司帝国の人間には見えない。
「……こちらの方を捕まえに行ったんです~?」
「そうだよ」ニッコリ笑って答える羽京。
「そっか~…」
少し苦しそうに息継ぎをする葵に、羽京がそんなに急いで来なくても大丈夫だよ、とフォローする。
「ううん、気にしないで~」
ほわ~んと気の抜ける笑みを浮かべて笑う。
やっと整った息で、クロムに話しかけた。
「…初めまして~私は西宮葵。よろしくです~」
「ん?あ、ああ…」
ふんわりとした雰囲気に負けてしまいそうになるが、危ねぇ危ねぇと何とか自制心で耐える。
「えへへ~。私はご覧の通りはみ出し者だから、そんなに警戒なさらず~」
「………?はみ出し者、ってなんだよ?」
情報を【一方的に】引き出す分には確かに難しいだろう。何せ捕まえられたばかりだ。
だが、敢えてこちらの情報を伝えつつ、向こうを長期戦覚悟で探るなら?
「あはは、別に葵ははみ出し者じゃ無いと思うけど…?」
「…そうですかね~?戦えないし、司君に復活してもらってないし……」
しゅーんとする葵。
「お、おう…よくわかんねーけど、アンタはどうやって復活したんだ…??」
復活液が石像からの復活には必要だと聞いた。千空が例外で非常にレアケースというのも。じゃあ他の方法で復活したのかーー?
情報を取られる方には警戒心が行く。だけど、質問する方はーー情報を取ろうとする方緩くなる。
その質問する内容や表情、雰囲気などもまた、情報の一つなのだが。
(引っかかった)
ニヤリ、と内心で葵が笑う。