第10章 優しい理想家
「えぇ!?アオさんが捕まった!?」
「なんでも、あの科学王国のやつを逃がしちまったからって…」「陽君殺したとか言われてるけど…絶対ねえだろ…」「嘘じゃねーの…!?陽を庇ったんだよ……!!」
帝国内は騒然としていた。無理もない。
葵は唯一の調理係として料理を振る舞い、皆を労い、しかも生歌を夕食時には歌ってくれていた。
曲は全てリクエストで、リクエストして歌われたら蒼い、葵の瞳と同じリボンがプレゼントされた。しかも直筆サイン入りーーならぬ、直筆刺繍である。
手首に大事そうにリボンをつけた1人のファンが呟く。
「あんなにいい人なのに…何も捕まえなくても…」
「だよなあ…」「人どころか虫も殺せないだろうに…」
口には出さないが、皆『司は頭がおかしい』と思っているのは明白だった。
そこへザッ、ニッキー達が現れる。
「アンタら!!どうしたんだい!何しょぼくれてんだよ!!!」
「あ、ニッキー…どうもこうも…」
しゅんと項垂れるファン達につかつかとニッキーが近付く。
「よく聞きな、アンタら。もしかしたら葵を助けられるかもしれない」
「「「「え!?」」」」
詳しい事はこっちですると言うニッキー。
ボソリと、杠にだけ聞こえる声で呟いた。
「……間違ってはないけど…こういうの言うの、大分精神やられるねぇ…騙してる気分だよ。
本当あの子にはかなわないね」
「まあまあ!事実ではあるから…!」
「じゃなきゃ言えないよ、本当にね…」
はあ……とニッキーは溜息をついた。
ここだよ、と言って辿り着いたのは千空の眠る…とされる墓。
いつもの様に、電話を取り出して作戦開始する。
「うぉおおおお!!本物だ!」「この歌!!間違いねぇ!!」「アメリカが復興してんのか!!」
盛り上がる中で、1人のファンがそろり、とマイクに口を寄せる。
「あのー…リリアンさん……Aonnさんのお友達ですよね…?」
「Yes!! What’s wrong with that?」
「もちろん!でもそれがどうかしたの?」
千空がそれっぽく通訳する。
「…実は、Aonnさんが犯罪者って事にされて捕まってて。絶対冤罪だと思うんですけど…助けて貰えますか?」
「えっ!?Aonnちゃんが!?」
身を乗り出すような、気迫のある声の演技。流石メンタリスト、ゲンである。