第6章 手のかかる猫
「あのお…これには…ちゃんとワケが……」
「どういう理屈かな?」
「…あの場で羽京君を連れてくる選択肢とかはありますが、そうすると千空君達の気が緩みますよね…?」
「……まあ、作戦が上手く行ったらそうなるだろうね。僕達二人を同時に、ってなると危ういし。
それで要注意人物のうち、僕の方のカードは温存した、ってこと?」
「はい……私が最初に接触して千空さんとか科学王国の人達の事とか判断出来るし……そっちが良いと判断しました……」
と言いつつ簀巻き横倒し状態からもそもそと起き上がり、羽京の正面に正座状態でしゅーん……と項垂れている葵。
確かにそれなら納得はいく。人間は上手くいって油断した頃に失敗する。今回のケータイ作戦はまだ本格的に始動もしてないし、特に慎重に事を運ぶ必要があるから必要だったのだろう。……だが。
「…で、『落とす』云々は…?説得する、って言えばいいよね」
「うっ」クリティカルヒットの様だ。
「軍師っぽさ重視しました……」
まさかの【見た目から入りました】的なやつである。これでは流石にお許しが降りないだろう。
「はあ…。全く君は…」「うう~~ごめんにゃさい~~」「子猫ぶってもダメだよ?」
コツン、と額を拳で小突く。
「あう~……羽京君を落とせるとか、意のままにしようとか全然思って無いので……軍師関係無く私にはハードルが高いのです…無理なのです……」
ひくひく、と泣き出す葵。
「……そうなの?」少し驚く。どういう事だろう?
「はい~……。前に告白された時もびっくりしましたし……。心のうちを読みづらい、って今日言ってたのは本当ですし……読めても上手く誘惑とか無理です…」「……それは、どうして?」
何となく理由が気になった羽京は、更に葵との距離を詰める。
葵の耳にふっ、と息をかけるとビクゥ!!と可愛らしい反応が返ってくる。
「無理です…私の顔とか声とかそういうので釣られる人じゃないですもん……ちゃんと中身をじーっと見て判断するし……
羽京君は綺麗な人ですから…あまり近付き過ぎたら……私が穢してしまう気がするのです…」
そう俯きながらぽそぽそと告白する葵。
……どうやら、その呟いてる言葉の方が余程褒め言葉で、羽京をある意味【落として】いる事に気が付いてないようだ。