第21章 苦手を克服できたのは
蒸し暑い初夏の夕暮れ
自主練を終え、人気のない廊下を歩く
流れてくる汗を拭いながら普通科の前を通ると
机に突っ伏しているその姿が見えた
「おい、大丈夫か」
そっと近づいて、ぽんぽんと軽く頭に触れると
眠そうに動いた彼女が薄く目を開ける
「あれ・・、相澤、くん?」
パチリと大きく瞬きをして
え、今何時?!と慌てて教室の時計を見上げた
「珍しいな、こんな所で居眠りなんて」
「またやっちゃった・・」
そう言って彼女は恥ずかしそうに笑った
「英語がどうしても苦手でね、
いつもすぐに集中力が切れちゃって・・」
まさか相澤くんに見られるなんて、そう言って紅くなった彼女に自主練の疲れが吹き飛ぶのを感じる
「週末、うちで一緒に勉強でもする、か」
「え、相澤くん、英語得意なの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
俺が得意なのはどちらかと言えばヒーロー科の実技科目が中心、
一般教科はおそらく彼女の方が成績がいい
「話し相手が居れば、眠くならないかと思っただけ」
「ふふ、相澤くんすぐ寝ちゃうもんね」
「今寝てたのは誰だよ」
それに家ならさ、
まぁ眠くなったら寝てもいいし、
そう言った途端、紅く染まった彼女の頬に
言葉を間違えたことに気が付いた
「いや、ちが、変な意味じゃなくて・・っ!」
慌てて否定し下を向くと、同じように下を向いた彼女が消えそうな声で呟く
「相澤くんがいいなら・・
私も眠くなったら寝ちゃおうかな、、」
おい、今何て、
「そ、それって」
そろそろ帰るね・・!そう誤魔化して顔を上げた彼女に衝動的に唇を合わせる
ゆっくりと顔を離すと丸く見開かれた目が俺を見つめていた
「今のは、お前が悪い・・よな」
「こ、ここ、教室・・!」
「それは謝るけど」
狼狽える姿に笑いがこみ上げ口元を隠すと、湯気の出そうな顔で彼女が睨んだ
「勉強なんて、できる気がしない」
「・・私は、します」
待ち遠しいな、そう呟いて柔らかな髪に触れると、彼女は眉を顰めてまた下を向いた
「変なことしない、って一応約束してね」
「するわけ無いだろそんなもん」
「え、それはどっちの・・」
「約束」
守れない約束はしない主義だから、そう伝えると面白いくらいに彼女の目が泳いだ