第18章 甘い策には乗ってやれ
「それではァ!誓いのキス、カモン!」
「しねェよアホか」
「ヒュー!」
こんなに恥をかいたのは初めてだ、着席した途端に疲れが押し寄せげっそりと項垂れる
誓いのキス見たかったのに〜!と隣のテーブルで文句を垂れる芦戸と葉隠を無言で睨みつけ黙らせた
「にしても、あの歌はいらなかっただろ
お前が歌ってくれた方がずっと良い」
誕生日会で盛大な嫌がらせだぞ、そう言って紙コップの中身を一気に飲み干した
「いや、マイク先生くらい煩くないと
後ろからの気配に気付かれちゃうと思って」
「ああ、なるほどな」
「オイオイ何て言い草だロッキンガール!」
生徒たちが次々と冷やかしに現れる中、懲りない峰田が猫耳のカチューシャを彼女に手渡した
「何だかんだ言って・・
男はコレが一番嬉しいんスよ・・」
「じゃあ、ありがたく貰っておくね」
受け取らんでいい!とそれを制止しつつ、猫耳を付けた彼女を想像する
そして同じ画を想像したであろう峰田の顔を残っているケーキに沈めた
「相澤くんも想像したでしょ、同罪だよ」
そう言って彼女は凄まじい量のケーキをスプーンで掬い、俺の口に突っ込んだ
この雰囲気を心から楽しんでいる花嫁は、生徒たちと写真に収まったり八百万のいれた紅茶の香りに感動したりしている
俺はやけに喉が乾くよ、と彼女に呟いて冷たい飲み物を取りに立ち上がると、いつかと同じ台詞が聞こえた
「私のセレクト最高だったでしょう?」
自信満々のその声に、ジュースを注ぎながら振り返らずに答える
「今回は、まぁ、そうですね」
「彼女今日なぜかノーメイクだったの、
だから一からお化粧もできて最高の仕上がり」
すっぴん出勤の理由を問い詰めても紅くなるだけで教えてくれないのよ、何故かしら?
そう言って香山さんはにやにやと笑みを浮かべ、無言で立ち去ろうとする俺の腕を掴むと耳元で囁いた
そうそう、
「あのドレスはお祝いにあげるわ、だから今晩、
あなたの”好きなように”汚していいわよ」
感謝しなさいよ、そう満足気に言い残して去っていく背中を思いきり睨みつける
峰田にしろ香山さんにしろ、
何で俺の周りはろくでもない奴ばかりなんだ
そう呆れながらも
今夜の甘い展開を想像し
ごくり、と生唾を飲んた己が情けなくて頭を抱えた