第18章 甘い策には乗ってやれ
思ったより肌寒いな、
そう独り言ちて足早に体育館を目指す
十一月のこの時間はもうかなり暗い
ブラドも呼ばれているということは今更林間合宿の話でもするのだろうか、
事件直後に一通り報告したはずの内容を頭から引っ張り出し、歩く速度を更に速めた
体育館の煌々とした灯りが外に漏れ、暗闇との対比が俺を焦らせる
時間が勿体ない、
重い扉を開けた途端差し込んだ光に目を細め、俺は声を張り上げた
「おいブラド!聞いてはいると思うが、」
応接室まで急ぎ一緒に来てくれ、
そう言いかけた俺の目の前で
パンッ!とクラッカーの音が弾けた
「「「相澤先生!!お誕生日、
おめでとうございます!!!」」」
目に飛び込んできたのは満面の笑みを浮かべた教え子たち
俺はただ唖然としたまま、腕を引かれ背中を押され
あっという間に体育館の奥へと連れ込まれる
まさか・・
「先生!びっくりした〜?!」
「お!ちゃんとスーツ着てんじゃん!」
「オレたちが普通に呼び出しても来てくれないと思ったんスよ!」
がやがやと作戦成功の興奮を爆発させる生徒たちの向こうにしたり顔のブラドの姿が見え、その横で「やあ!」と手を挙げる根津校長に思い切り舌打ちをした
山田や香山さんならともかく、とんだ仕掛け人だなおい・・
まんまと騙された腹立たしさに、自分の眉間にはっきりと皺が寄っていくのが分かる
だが同時に、想像していた面倒な来客が居ないことへの確かな安堵も感じていた
「・・お前ら」
の気持ちはまぁ、嬉しいよ、ありがとね
そう思わなくもない
が、わいわいと騒ぐ生徒たちの向こうに見えたのは幾つものテーブルと椅子
そしてその上には紙コップが整然と並べられ、色とりどりのコンビニ菓子が盛り付けられた紙皿が所狭しと置かれている
これは一体、何時に終わるんだ・・
お前らもよく知ってる奥さんが家で待ってるんだ、悪いが帰らせてもらう
なんて生徒に言えるはずがない
「ケーキも買って帰るね、どんなのがいい?」
その手の質問には毎回「何でもいい」と俺が返すのを分かってて懲りずに聞いてくるんだ
合理性を欠くやりとりも不毛な話題も無条件に許してしまう、唯一の愛しい人を頭に浮かべ俺は深い溜息をついた