第17章 帰りたい日に限って
今日は早く帰る、当然の如くそう決めていた俺は放課後の職員室で黙々と作業をこなす
誰も俺に話しかけるなよ、間違いなくそう念を発していたにも拘らず、底抜けに明るいあの声が背後で響いた
「やあ相澤くん!精が出るね!」
「こ、校長・・・」
嫌な予感がした俺は、パソコンに向き直りながら尋ねる
「・・何でしょう」
すると校長はゆっくりと俺に近づきながら真剣な面持ちで言葉を発した
「急な頼みで申し訳ないんだが、敵連合のことで君の話が聞きたいと警察の方々が見えてるんだ」
ああ、帰りたい日に限ってこれだ
「・・アポ無しとは非常識ですね」
なんで今日なんだ、そう思っても事態が変わるわけじゃない、とっとと終わらせるしかない
クソ、なんで今日なんだ
どの応接室ですか、そう言って椅子から立ち上がった俺を校長が引き留める
「それが、いつもの面々ではなく普段は出てこないようなお偉いさん方ばかりでね」
「だから何です」
俺がそう言うと校長は
ぴょこ、と左手を掲げるお決まりのポーズで明るく告げた
「・・ピシッと正装で臨んでほしいのさ!」
「お断りします」
連合の話をするのと服装に何の関係があるってんだ、全く合理的じゃない
「君の意見は最もなのさ!でも今日はどうか、折れてくれないか」
そう言うと校長はペコリと頭を下げ俺に飴を握らせた
正装の縛りがある程のよほどの奴が来てるのか、ますます面倒臭くて頭痛がする
しかし今、この時間が何よりも無駄だ
早く終わらせて帰るんだ俺は
「・・着替えりゃいいんでしょう」
———
応接室に行く前に体育館にいるブラドまで呼んで来いとは・・、人使いが荒いにも程がある
小さく悪態をついて飴を口に放り込むと、更衣室の冷たいドアノブに触れた
好物を沢山作る、そう張り切っていた彼女の顔を思い出しながらスーツに着替え髪を纏める
相澤くん、すごく格好いい・・!
先日のパーティーでの反応を思い出し
まぁ今日はこのまま部屋に帰るのも悪くないか、なんて態とらしい溜息を吐いた
早く帰ってその顔が見たい
「おめでとう」と紡ぐ愛しい唇に触れて
誕生日は何でも許されるんだろう、と迫って困らせたい
一秒でも早く終わらせる、鏡の中で柄にも無くにやける男を睨みつけ俺は更衣室を後にした