第17章 帰りたい日に限って
「お誕生日おめでとう、相澤くん」
「おはよう、お誕生日おめでとう」
「消太、ハッピーバースデー!」
起きて、と俺の頬をつつきながら腕の中で彼女が微笑んだ
「あと何回言うつもりなんだお前・・」
昨晩0時以降、彼女は口を開けばおめでとうと言い続けている
煩い唇を塞ごうと口付けても「今まで言えなかった分、沢山言いたいの」なんて、また同じ言葉を繰り返すのだ
「じゃあ、プレゼント寄越せよ」
薄目を開けその寝巻きに手を忍ばせると
朝そんな時間はありません、と即刻剥がされた
「ちゃんと夜渡すから」
「へえ、それは楽しみだ」
晩ご飯も消太の好物たくさん作るからね、彼女があまりにも幸せそうに笑うから
今日一日そんな顔が見られるなら休みでも取りゃよかったよ、と到底叶わない願いが頭をよぎった
「せっかくの誕生日だ、いつもと逆の眺めも悪くないな」
起き上がろうとした身体を引き寄せ、上になった彼女の腰に両手を添えるとその顔が一瞬で紅く染まる
「もう支度する時間・・っ!」
「つまみ食いくらいいいだろ」
「絶対つまみ食いで終わらないもん!」
最後まで欲しがるのは誰だよ、そう言って指で背中をなぞると彼女は紅い顔で気まずそうに俺を睨んだ
「朝ごはん抜いても、30分くらいしか・・」
「健康オタクの薬師先生が朝メシ抜きとは、そんなに俺とシたいか」
「や、やっぱり朝ごはん作る!」
「15分、約束する」
時間が限られてるからな、残念だがこの体勢は夜までとっておこう、そう言って俺はくるりと彼女を反転させた
「ちょ、相澤くん!」
「誰のことだか」
「っ消太、」
彼女の髪に指を差し込み口付ける
「それでは手短に」耳元でそう囁くと、彼女は諦めた顔で「お誕生日おめでとう」とその腕を俺に絡めた
———
「ああああ!遅刻だよもう!!!」
準備にかかる時間が違うんだからね!、焦りの滲んだ声が部屋に響き渡る
慌てて服を身につける姿に笑いを堪えつつ、俺はゆっくりと靴を履いた
「15分なんて!大嘘つき!」
「誕生日なんだ、怒るなよ」
そう言えば何でも許されると思って!そう責める彼女に背を向け「んじゃお先に」と部屋を出る
誕生日と言えば何でも許されるのか、それはいい事を聞いた、
にやける口を捕縛布に埋め早足で職場へと向かった