第12章 むかしのはなし
ああやっちまった、面倒くさい
腹立たしさと情けなさは盛大な舌打ちとなって澄んだ空気へと消える
「アレアレ相澤クン?!よくご存知で!
もしかして!?
何か処方されたことあんのかなァ!?
愛のお薬処方されちまったかHAHAHA!」
「いいなァ、俺も欲しいなぁ愛のお薬!!」
ゲラゲラと笑い転げる背中に思い切り蹴りを入れ、熱くなった顔を隠したくてガシガシと髪を乱した
「るせぇ、お前ら殺す!」
めぐ、か
彼女に似合ういい名前だ
・・って何も知らねェけど
好きな色かは分からないが、借りたブランケットも確か薄紫だったよな
他にはどんなものが好きなんだろう
何を渡せば彼女は喜ぶんだろう
、いや何も渡す予定なんて無いけど
誕生日くらい調べてこいよ、なんて言えるはずもなく
山田にだけ一発多く蹴りを入れた
「あと極秘情報も入手したぜ? ここ最近、三人が彼女に告白したが全員ことごとく玉砕ィ!フラれた奴は皆“気になる人がいる”と言われたそうだ!」
山田が得意気に笑う
これはまあ確かに有益か、なんて思ったのは絶対にバレないよう睨みをきかせると、強引に肩を組んだ白雲が俺を覗き込んでにやにやと笑った
「なんか言えよショータ!」
「・・興味ないから」
好きな奴いるのか、どんな奴なんだろ
俺の交友関係はほぼココだけ、そもそも普通科にどんな奴が居るのかすら知らない
入学して初めて、自分の友人の少なさに悔いが芽生えた
「気遣い上手で人当たりもいい、とろける笑顔とお茶目な性格!上にも下にもファンが多いらしいぜェ!」
「下はまだ居ないだろ」
テキトーなこと言うんじゃねェよ、そう言って睨みつけると「来週には増えんダヨ」と山田の減らず口がほざいた
「つーことで!オレもひざしも一緒に好きになっちゃおうかな!めっちゃ可愛いもんな、めぐチャン!」
ありえないほど清々しい表情の白雲が腰に手を当て大声で言う
晴れた空がこんなにも似合う奴がいるのか、と思うほどに
「三人のうち誰が落とせるか勝負な!」
「おい!何言って・・!」
思わず声を上げると、楽しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃぐ二人が踊り出した
「焦ってる!ショータ焦ってる!?かーあいい!俺のショータァ!!!」
「まじふざけんな!離せって!」