第1章 話しかけてもいいか
「はぁ・・・」
改札を出た途端、容赦なく照りつける西日に溜息が漏れる
これのどこが秋なんだ
真っ黒のヒーロースーツが熱を吸収して
自分だけ損をしている気分になる
エリちゃんの病院から職場へ戻る道のり、渇いた目を潤そうとポケットを探るがそれは見当たらない
病室に置き忘れたか・・、そう独り言ちて仕方なく駅前の薬局に足を向けた
自動ドアが開くと同時に過剰な冷房が身体を冷やして、所狭しと商品が並んだ店の隅、その棚に手を伸ばす
どれを選んでも大して変わらない、そう思ってはいてもいざ一つだけ手に取るとなると無駄に迷い苛立つんだ
合理性に欠けるよ、全く
「あの、眼薬をお探しですか?」
無表情で佇む俺に背後から掛けられたその声、吐き出す筈の息を思わず飲み込んで
店員に話しかけられるのは好きじゃない、
いつもなら決まってそう思うのに
鼓膜を揺らしたその声に、身体が動かない
変わらない長い髪、だがあの頃よりもかなり大人びた彼女が俺を覗き込み大きく目を開いた
「あ、」
「お前・・」
時が止まったような沈黙を先に破ったのは彼女の方だった
「、どんなものを、お探しですか」
「——ああ、ドライアイと疲れに効・・」
そう言い終わらないうちに目の前に置かれた二種類の小さな箱、同時に彼女は逃げるように踵を返した
「でしたらこのどちらか、ですね」
行ってしまう
何か、言わないと
早く何か言わないと
元気にしてるのか、とか
なぜこの街に居るんだ、とか
あの時は悪かった、とか————
「薬師さーん!!わざわざ顔出してくれたのに、
お待たせしてごめんね〜!」
「い、いえ!」
店員だろうか、彼女を呼ぶ声にあの頃と変らない背中が視界から消える
目の前に置かれた箱を手に取り急いで追いかけるが、どこを見渡してもすでに彼女の姿は無くて
再会を望んでいたのか
会いたかったのか
そんなこと、今まで考えたことすらなかった
気持ちの整理が全くつかないまま、重い足を引き摺るようにして職場へと戻る
雄英高校普通課卒 薬師めぐ
俺が身勝手に突き放した、忘れられない人
先ほどよりも強くて忌まわしい太陽が、呆然とする俺をじりじりと照らしていた